中村元の「阿弥陀経」(5/10)
この連続記事は、1985年4月から9月まで、NHKラジオ第二放送で行われた全26回の連続講義「こころをよむ/仏典」 (CDはこれ)の「第19回 極楽国土を欣求する-阿弥陀経」の部分を、『中村先生の声』と『読み下し文』、そして『中村先生の説明』を、この放送を活字化した、前田専学先生監修の「仏典をよむ4 大乗の教え(下)」(これ)を元に味わっていくもので今日はその第5回目、引き続き極楽世界についての説明である。
<こころをよむ/仏典「阿弥陀経」~その5>
うしゃ りほつ ひぶっこく ど じょうさてんがく おうごんい じ ちゅうや ろくじ に う まん だ ら け
又舎利弗 彼仏国土 常作天楽 黄金為地 昼夜六時 而雨曼陀羅華
ごこくしゅじょう じょういしょうたん かくい え こく じょうしゅみょうけ くようたほう
其国衆生 常以清旦 各以衣裓 盛衆妙華 供養他方
じゅうまんのくぶつ そくいじきじ げんとうほんごく ぼんじききょうぎょう しゃりほつ ごくらくこくど
十万億仏 即以食時 還到本国 飯食経行 舎利弗 極楽国土
じょうじゅにょぜ くどくしょうごん
成就如是 功徳荘厳
「また、舎利弗よ、かの仏国土、常に天楽(てんがく)をなし、黄金を地をなす。昼夜六時に、曼陀羅華(まんだらげ)を雨ふらす。その国の衆生、常に清旦(しょうたん)をもって、おのおの衣裓(えこく)をもちいて、もろもろの妙華(みょうげ)を盛り、他方[世界の]十万億の仏を供養す。すなわち食時(じきじ)をもって、本国に還到(げんとう)して、飯食(はんじき)し、経行(きょうぎょう)す。舎利弗よ、極楽国土には、かくのごとき功徳荘厳を成就せり。」
「また、かの仏国土、つまり極楽は、いつも天の音楽を奏している。そして地面は黄金よりなる。ここの原文では黄金の色をしているとなっていますが、前のところでも、池の底には金の沙が敷きつめてあったと書かれていましたね。なぜこういう金・銀・宝石の序列があるかというと、この経典ができたころのインドは外国貿易の非常に栄えた時代だったからなのです。この時代は、インドの宝石や香料、そのほか貴重品を、西方、つまりローマの世界に売りつけて、そのかわりローマからは多大の金が流入してくるというときでした。それをもとに、インド独自の金貨をつくったり、あるいはローマの金貨をそのまま使ったりしていたのです。つまり、古代インドの歴史のなかではいちばん経済の栄えていた、繁栄した時代でしたから、彼らの生活経験がここに反映しているのです。
そして「昼夜六時に曼陀羅華(まんだらげ)を雨ふらす」。当時、一日を昼夜の二つに分け、それぞれを三時に分けていました。昼を「晨朝(じんじょう)(早朝)」「日中」「日没(にちもつ)」、夜を「初夜(PM6~10)」「中夜(PM10~AM2)」「後夜(ごや)(AM2~6)」です。
さらに、その国で生きている人は、いつも「清旦(しょうたん)」、清々しい朝に、めいめいが「衣裓(えこく)」、花を盛る器を持ち、フウッとほかの世界へ飛んでいって十万億の仏さまを供養し、食事のときに自分の国に戻ってくる。これは朝飯の時のことをいいます。インドのお坊さんは午後には何も食べませんから、いわゆる朝飯前の仕事というわけです。それからごはんをいただいて、「経行(きょうぎょう)」する。経行とは、身体を調節するために、行きつ戻りつ、そぞろ歩きすることです。」
引き続き、極楽国土のみごとな光景が描写される。今日のところは「四荘厳(ししょうごん)」のうち、
③天楽(てんがく)・金地(こんじ)・天華(てんげ)の荘厳
である。
小乗仏教では「歌舞観聴(かぶかんちょう)を離れる戒を保つ」があるので、原始仏教聖 典では音楽に触れない傾向があるが、大乗仏教では、仏・菩薩への供養ということで排されない。
インドは「牛の国」とともに「花の国」だという。その中でも「ブラフマ・カマル(梵天が与えた蓮)」は日本では「月下美人」と言われているそうだ。
極楽国土の説明は続く。
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