「かんぽの宿」問題~自分の“付和雷同”を思う
日本郵政が「かんぽの宿」のオリックスへの売却凍結を表明したことで、またまた新聞がにぎやかである。一連の報道を読みながら、自分の捉え方に色々と問題がある事を認識した・・・。(写真はクリックで拡大)
昨日の日経の社説にこうある。
「「かんぽの宿」不可解な凍結(日経・社説2009年1月30日)
何とも不可解だ。日本郵政は宿泊施設「かんぽの宿」のオリックスへの譲渡凍結を表明した。鳩山邦夫総務相が宮内義彦オリックス会長の公職歴などを盾に反発し、譲渡手続きに必要な会社分割の認可を得られそうにないからだという。
十分な証拠も示さず政治の圧力で入札結果を覆す総務相の姿勢は全く納得できないが、「公明正大な手続きだ」といいながら、満足な説明もなく簡単に折れた日本郵政の西川善文社長の姿勢にも問題がある。
かんぽの宿は年50億円規模の赤字を出している。日本郵政は今年度事業計画に沿って競争入札を実施し、雇用維持を表明したオリックス不動産に108億円で70施設を一括譲渡すると決めた。総務相は猛反発し、日本郵政への質問状の答えにも「全く説得力もない」と述べた。
西川社長は「譲渡案は横に置き、原点に立ち戻って再検討する」と表明した。入札手続きは「公明正大で、疑いを持たれることはない」ともいう。総務相も西川社長も他の入札参加者や金額などの公表を控えている。外からみて何が譲渡凍結の原因なのかが、さっぱり分からない。
総務相の主張は説得力を欠く。まず規制改革・民間開放推進会議議長だった宮内会長が率いるオリックスへの譲渡を「出来レース」と批判した点だ。入札に落ち度や不正があるのなら当然指弾されるべきだが、その根拠は示されていない。
政治家の「直感」で入札という商慣行が否定されるようでは、国内企業どころか海外の日本に対する信頼も落としかねない。総務相に付和雷同する野党の姿勢も無責任だ。
日本郵政も不正がないというなら総務相の指摘に粘り強く反論すべきだ。当初は政府の100%出資とはいえ、民間人の西川氏が日本郵政のトップになったのは、政治圧力に屈せず、合理的な経営判断で民営化の実をあげることを期待されたからではなかったか。入札価格が適正かどうかなどを判断できる具体的な情報を一般にも示す必要があった。
かんぽの宿70施設の建設費用は2400億円にのぼる。それが大幅に減価しているのは間違いない。採算を顧みず、ずさんな投資をした官の責任を不問に付すのもおかしい。」
この主張はもっともな議論だと思う。
一方、朝日新聞の今日の社説では、・・・
「かんぽの宿売却―徹底調査と公表で道開け(朝日新聞・社説2009年1月31日)
日本郵政が「かんぽの宿」のオリックス不動産への売却を一時凍結すると表明した。弁護士や公認会計士など外部の専門家による第三者委員会を設けて売却プロセスを洗い直すという。
売却に対する鳩山総務相の「待った」は、根拠が不明確で納得できないが、日本郵政は入札が適正だったというのなら、徹底した調査と結果の公表で、それを証明するしかない。
鳩山発言を受け、国民の間からも売却に疑問の声が出ている。その核心は、購入・建設に2400億円もかかった79施設を109億円で売るのはおかしい、という点だろう。
たしかにこれでは大損だ。しかし、よく考えてみたい。
バブル崩壊後、日本の地価は下がり続けている。事業用の不動産価格は事業の収益性で決まる、というのが今日では常識になっている。ところが、売却施設のうち黒字が出ているのは11だけで、全体では40億~50億円の赤字が毎年出ている。そのうえ、正規・非正規3200人の従業員の雇用継続にも努めなければならない。
こうした条件のもとで、入札は行われた。となれば、当初の投資価格から大幅に下落するのは避けられないと思われる。しかも、地価が大きく上昇する見込みはなく、売却が遅れれば赤字がそれだけ累積する。
では、どんな価格が適切なのか。専門家の間でも意見が分かれるだろう。だが、公開の入札を行い、いちばん有利な売却条件を落札とするのだから、それが安くても、現状での市場の判断として受け入れる以外にないのではなかろうか。「もっと高く売れる」というなら、そういう買い手を見つけて来るしかない。
これほど巨額の損失を出すことになった責任はどこにあるのか。郵貯や簡保の客から預かったお金を、収益性を無視して施設建設に投じた放漫な官業ビジネスと、そうした施設を選挙区へ誘致してきた政治家こそ責めを負うべきだろう。この点も含め、総務相には問題の全体像を見てほしい。
もちろん以上の議論は、入札が適正に行われたことが大前提である。談合のような不正や不適切な事務処理があったなら話は別だ。鳩山氏は昨日の国会答弁で、そのような疑義を口にした。それなら問題点を具体的に示してほしい。担当大臣なのだから、ただ「疑問あり」では済まない。
日本郵政にも注文がある。売却が問題視されてからも、入札についての情報をきちんと出さず、疑念を膨らませる結果になった。経営姿勢が内向きになって経営情報を出し渋り、官業体質へ逆戻りしているように思える。これは経営の求心力低下にもつながっている。この機会に、民間企業としての決意を新たにしてほしい。 」
実はこの問題で、自分が一番影響を受けた社説が朝日の1月18日の社説・・・。
「かんぽの宿―筋通らぬ総務相の横やり (朝日新聞・社説2009年1月18日)
日本郵政が全国にもつ宿泊施設「かんぽの宿」をオリックス不動産へ譲渡する話に対し、許認可権をもつ鳩山総務相が「待った」をかけている。
日本郵政の西川善文社長から説明を受けたが、鳩山氏は「納得できない」という。だが、理由が不明確で納得できないのは、鳩山氏の「待った」の方ではないのか。許認可という強権を使い、すでに終わった入札結果を白紙に戻そうというのなら、その根拠を明示する責任はまず鳩山氏にある。
かんぽの宿は年間200万人ほどの利用があるものの、赤字続きだ。郵政民営化から5年以内に譲渡するか廃止することになっていた。
日本郵政は前任の増田総務相が認可した08年度の事業計画にかんぽの宿の譲渡を盛り込み、昨年4月から入札手続きに入った。27社が応札し、2度の入札でオリックスに決まった。
全国の宿70設と社宅9カ所を一括して約109億円で売却する。資産の帳簿上の値打ちは141億円だが、借金を差し引いた純資産は93億円。落札価格は、これを16億円ほど上回る。
鳩山氏が問題だと指摘するのは次の3点だ。なぜ不動産価格が下がるいま売るのか。なぜ一括売却なのか。なぜ規制改革・民間開放推進会議の議長を長く務め、郵政民営化を支持していた宮内義彦氏が率いるオリックスに売るのか。「国民が“出来レース”と見る可能性がある」として、譲渡に必要な会社分割を認可しないという。
これに対して西川社長が説明した内容は、しごくもっともに思える。
赤字が毎年40億~50億円あり、地価が急上昇しない限り、早く売る方が有利だ。一括売却でないと不採算施設が売れ残り、従業員の雇用が守れない。全国ネットとした方が価値も上がる。最高額で落札し、雇用を守る姿勢が最も明確だったのがオリックスだ――。
鳩山氏は譲渡価格109億円が適切か総務省に調査させるという。だが調査する前から「納得する可能性は限りなくゼロに近い」とも発言している。
これはとうてい納得できない。明治時代の官業払い下げならいざしらず、競争入札を経た結果に対し、さしたる根拠も示さずに許認可権を振り回すのでは、不当な政治介入だと批判されても抗弁できまい。
宮内氏は規制緩和や民営化を推進してきた。官僚任せでは構造改革が進まないため、当時の政権が要請したものだ。過去の経歴や言動を後になってあげつらうのでは、政府に協力する民間人はいなくなってしまう。
自民党内では、郵政民営化の見直しの動きが続いている。鳩山氏はこれとの関連の有無について言及していないが、もしも「待った」の真意が民営化策の見直しにあるのなら、正面から堂々とそちらの主張をするべきだ。」
実は、この1月18日の社説を読んで「然り!」と思った。特に「過去の経歴や言動を後になってあげつらうのでは、政府に協力する民間人はいなくなってしまう」との指摘。
しかし、その後「2400億円かけて建てた施設を、たった109億円で売るのか?」という論を聞いて、また「然り!」と思った。
でも現在価値は「資産の帳簿上の値打ちは141億円だが、借金を差し引いた純資産は93億円」だという。
「直感」を自分は否定しない。意外と当たっていることが多いので・・。
しかし、「“公正に行われた”入札結果」を日本郵政が公表しないまま、オリックス不動産への売却を一時凍結すると表明したとすると、日本郵政側に説明できない何かがあると勘ぐられてしまう。
市場価格と「資産の帳簿上の値打ち」とは何が違うのか分からないが、結論は見えている。
「「もっと高く売れる」というなら、そういう買い手を見つけて来るしかない。 」
よって、再入札をしてどの位の価格で売れるのか?109億円が妥当な市場価格なら、同じような入札結果となるだろうし、その際は、総務相は何らかの責任を取らされる。
一方、109億円から大きく違ったら、日本郵政の責任は重大だ。(もっとも、これだけ大問題化した入札。それを火の粉が降りかかるのを承知で高値の札を入れる所があるとも思えないが・・・)
しかし、それ以上に見過ごされているのが、真の責任者の旧郵政省であり、地元に誘致した政治家だ。ここをもう少し顕在化させないといけない。
それに今日の夜のNHKニュースで、「一昨年、旧日本郵政公社が売却した鳥取県岩美町の“かんぽの宿”が、評価額が1万円だったにもかかわらず、半年後に地元の社会福祉法人に6000万円で転売されていたことが分かった」と報じられていた。うやむやにならぬように、事態の推移を注意深く見守る事としよう。
しかし、一方の言葉を聞いて「然り」と思い、反対側の言葉を聞いてまた「然り」と思うこの自分の姿勢はいったい何だ・・・。両者の議論よりも、“自分の付和雷同の姿勢”の方が“よっぽど大問題”な「かんぽの宿」問題ではある。
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コメント
当方、58歳。無職-求職中
ジャネット・ランキン女史の事を知りたくて、当サイトに辿り着きました。
昨年NHKドラマ“天璋院篤姫”のセリフ「一方聞いて、沙汰するな」同感です。
が、沈黙を通す宮内オリックス会長も問題だと思います。企業経営者なら、「商才にたける」・「利にさとい」事も大切かも知れません。(これらの言葉も受け取る人により、褒め言葉・貶し言葉になると思います。私は“小賢し(い)”く貶し言葉と思います。)
『李下の冠』・『我田引水』で、そもそも「かんぽの宿」自体に手を出すべきでは、無かったと考えます。
文革後のある中国銀行家が、「法に触れなければ、儲かると言って、麻薬を売るのか!?」との、企業モラルを説いていた事を思い出します。
企業経営者・リーディング・カンパニーのオーナー、ましてや政府諮問会議のメンバーたる人が、“落ちて来る果実”を黙って待つのは如何なものでしょうか?
サイトを乱した事、お詫びします。
投稿: 小笹仁 | 2009年2月 3日 (火) 11:27
小笹仁 さん
コメントありがとうございます。
天璋院篤姫の「一方聞いて、沙汰するな」は自分も同感です。
昼休みに散歩する道に、郵政の古いアパートがあります。「高輪郵政宿舎」とあります。桜田通りに面したタワーマンションの隣・・。これも109億円に入っているのかな?と思ってしまいます。
経緯を公表できない何かがあるのでしょうね。たぶん・・・
投稿: エムズの片割れ | 2009年2月 3日 (火) 23:04