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2008年12月29日 (月)

TBS「あの戦争は何だったのか~日米開戦と東条英機」を見る

TBS「シリーズ激動の昭和 あの戦争は何だったのか 日米開戦と東条英機」を見た。(2008/12/24(水)18:55~23:32放送)
081229toujyou 放送された12月24日は東条英機の葬儀からちょうど60年目だという。先ず民放が、ゴールデンタイムのこれだけの時間を費やして、それほど視聴率が稼げないであろうこの様な地味な番組を放送する事に驚いた。しかしTBSの番組公式HP(ここ)にはこうある。
「・・・戦争の記憶も少しずつ薄れつつある今、TBSでは昭和の歴史を振り返り、この時代に何があったのかを世代を超え後世に語り継ぎ、伝えていくべきだという強い思いのもと「シリーズ激動の昭和」という企画を発想。・・・」
この姿勢は素晴らしい・・・

この番組で自分なりに理解した事をメモしてみた。
・戦前の日本の体制は、天皇の下に司法・立法・行政及び統帥があり、行政(内閣)の下に海軍省・陸軍省があったものの、実際の軍隊は内閣の指揮下にはなく、軍隊を動かす海軍軍司令部・陸軍参謀本部は天皇の統帥権の下にあった。
・統帥権を持った天皇は、意見を参謀総長・軍司令部総長に言うが、持ってきた方針に対しては原則的に反対しない。これは立憲君主制=「君臨すれども統治せず」。よって戦前の日本はシステム的に命令系統が分かりづらかった。
・カリスマ思想家・徳富蘇峰を筆頭に、マスコミがこぞって民衆に開戦を煽った。東条英機と徳富蘇峰とは「宣戦の詔勅」を徳富に添削してもらった間柄という。
・天皇が東条英機を近衛文麿の後継首相に指名したのは、天皇の意思に絶対服従であり、軍を抑えられるのは東條しかいない、との判断かららしい。
・確かに東条英機は、それまでの開戦論者から、天皇の意を汲んで慎重論に変わった。そして組閣後、昭和16年10月23日から政府大本営連絡会議が始まった。そして11月1日の最後の連絡会で開戦を決定。そこには海軍と陸軍との駆け引きも・・・。翌11月2日に天皇に上奏。上奏しながら東条は号泣したという。
・「その時代」は、開戦を叫ぶ国民・マスコミの熱狂があり、逆に戦争を避けるための模索をする天皇と軍・政府のちぐはぐな姿があったという。
・立派な軍人の筆頭が山本五十六だった。山本は非開戦論者で、米英は長くやって勝てる相手ではない、と読んでいた。10月24日付けの手紙で「日米英衝突は避けらるるものなればこれを避け、この際、穏忍自戒臥薪嘗胆すべきは勿論なるも、それには非常の勇気と力とを要し、今日の事態にまで追い込まれたる日本が果たして左様に転機し得べきか・・・」と既に悲観的だった。しかし一旦開戦と決すれば、真珠湾奇襲を決行する。
・一方、ルーズベルト大統領は、日本の暗号を全て解読しており、真珠湾の先制攻撃も知っていた。しかし日本の奇襲を許した。スチムソン陸軍長官は後に「日本の先制攻撃がアメリカ世論をまとめるために望ましかった」と証言している。

後半のドラマの場面で印象に残ったのは、やはり開戦を決めた最後の政府大本営連絡会議。全員が疲れてぐったりしている姿と、タバコの煙で曇った会議室。何ともリアル。そこで300万人が死んだ太平洋戦争の開戦が決まったという・・・。

しかし、非常に難しい東条英機役のビートたけしは適役だった。真面目な昭和天皇役も含めて、全員がドラマに溶け込んでいた。それに、普通のドラマでは、恋愛エピソード等が散りばめられるが、それも無く、淡々と事実を追っているドラマ作りが好感を呼ぶ。

それにしても、この番組へのTBSの取り組みの姿勢には脱帽。NHKのドキュメンタリーではよくあるが、一つひとつの事実にきちんとエビデンス(根拠)を添えて解説していたのも良かった。単に視聴率だけを価値判断に置くのではなく、電波を預かっている立場として、また、マスコミが戦争を扇動したという過去の反省も踏まえて、地に足の付いたこの様な番組作りのTBSのスタンスに、改めてエールを送りたい。
幸い、この企画の第一弾「3月10日・東京大空襲 語られなかった33枚の真実」(2008/3/10放送)も録画してあった。忙しさにかまけて見ていなかったが、近々これも見てみよう。そして、もちろん今日の番組は、今後の勉強の為にDVDに録っておこう。

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コメント

個人的には、日中戦争の時期の近衛文麿に焦点を当てたドラマを期待する。

日本が中国と戦争した時点で、アメリカとの戦争は不可避であったと考える。

実際のところ、近衛こそが真の戦犯だったのであって、東條は大した役を果たしてはいない。近衛が将来の日米戦争を予期していなかったからといって、彼の責任は免じられない。

投稿: 通りすがり | 2008年12月29日 (月) 22:29

どんな理由があるにせよ、戦争で幸せになる人は兵器を作って儲ける一部の人だけなのに、どうして人間は戦争を繰り返すのでしょうか。有史以来いつも何処かで戦争をしています。英雄は戦争に勝った人ばかりです。銃で撃合いをしている男たちをみていると、男はバカだとつくづく思います。男性ホルモンのせいで戦うのだと言った人がいます。ですから、男が居る限り戦争は無くならないのだそうです。男を減らし一握り残せば戦争は無くなると言ったら、アマゾネスみたいに男を取り合って女が戦争をするかもと言った人がいます。本当のところはどうなのでしょうか。根本的に戦争をなくす薬を誰か発明しませんか。

投稿: 白萩 | 2008年12月30日 (火) 17:50

白萩さん

本当にそうですね。アマゾネスは面白いですが・・・。
最近、「その時代」という言葉が引っ掛かっています。後になってからは何とでも言えるが、「その時代」は、開戦に向けて国民が熱狂していた・・とか。
今の「この時代」は戦争があまりに彼方の話ですが、その時代が続いてくれる事を祈ります。
内戦の国も“今”が後になって「その時代・・」と言われるのでしょう。

投稿: エムズの片割れ | 2008年12月31日 (水) 21:56

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