全聾の作曲家 佐村河内守氏~日本のベートーヴェン?
「致知」という雑誌の2008年11月号に「わが人生の挑戦~闇の中に見出した小さな光~インタビュー全聾の作曲家に聞く」(P38)という記事が載っており(ここ)、興味深く読んだ。
と言うのは、作曲家 佐村河内 守(さむらごうち まもる)氏は、まったく耳が聞こえない全聾だという。しかし絶対音感があるので作曲は出来るという・・・。記事の人物紹介にこうある・・
「昭和38年広島県生まれ。4歳から母親にピアノを師事。作曲家を志し、高校卒業後に単身上京。その一方で高校時代から激しい偏頭痛に悩まされ、20代で聴覚異常を発症。35歳の時に全聾となるが、その後も肉体的、精神的な苦痛を抱えながら、絶対音感を頼りに作曲活動を続けている。平成9年ゲームソフト「鬼武者」の音楽が世界的評価を受ける。15年「交響曲第1番」完成。17年「交響曲第2番」完成。著書に「交響曲第1番」(講談社)がある。」
そしてこう語る・・・。
「9月1日に広島で開催された議長サミットで「交響曲第1番」が初演されたが、私は聴くことが出来ないという凄まじい葛藤・・・。しかし、私は子供の頃から音楽しかやってこなかったので、音楽を取ってしまったら何も残らない。耳が聞こえなくても譜面は書けるが、他には何の仕事も出来ない。音がなくなった、だから音楽しかなくなった。・・・
音が聞こえなくても「絶対音感」があれば作曲は出来るのです。普通は、例えばピアノを弾いて音を確かめながら、譜面に書き込んで曲を作っていく。しかし、絶対音感が備わっていれば、ピアノで確かめなくても分かる。これは、子どもの頃に訓練することによって養われるもので、大人になってからでは養えない。だから、音の組み合わせ、楽器の組み合わせ、和声和音もすべて頭の中で自由自在にできる。ちょっとこのホルンの音を半音下げて不協和音としたらどうなるだろうと思ったら、そこの音だけ変えて百人のオーケストラを頭の中で鳴らしてみる。実際に音を聞かなくても細部にわたって分かるのです。」
「私は自宅の作曲室で作曲するのですが、部屋の中には机が一つ置いてあるだけで、楽器は一切ありません。・・・頭の中に降りてくる曲を書き留める作業です。ただ、私には曲が降りてくるのを妨げるものがある。それは耳鳴りです。TV放送が終わった後のザーという音を、ものすごく大きくして四六時中ヘッドフォンで聞かされている感じ。・・・」
以下、上記とダブルが記事をかいつまんでみると・・・
「氏は子供の頃からピアニストの母親の特訓を受け、10才で「ソナタ」「コンチェルト」を終えるほどだった、(教授が敷いたエスカレータに乗ることを嫌って)音楽大学には行かなかった。しかし高校を卒業して上京したものの、世の中はそれほど甘くはなく、音大も出ていない作曲家には、誰も相手にしてくれなかった。その後、「鬼武者」というゲームソフトの音楽を担当したことで世界的に認められるようになったが、難聴の悲劇は高校時代から始まっており、上京して5年位たった頃、弟の交通死をきっかけに、(後で分かったが)突発性難聴が発症し、片耳が聞こえなくなった。しかし偏頭痛のためだろうと軽く考えて、病院に行かなかったため、難聴が固定。そしてもう一方の耳もダメになって、「鬼武者」が認められるようになった35才の時に完全な聾(耳が聞こえない)になってしまった。そして、頭の中はいつもジャーという音で一杯であり(「頭鳴症」=ずめいしょう)、とても眠れない。発作が起きると、浮遊感覚、全身の硬直、嘔吐が起き、光に対して敏感なので家から出られない。オムツをして糞と尿にまみれた生活をする深い闇を経験した。・・
そんな折りに、ご縁を頂いて障害児の施設を訪れる機会があり、そこで知りあった子どもたちが、発作で訪問できない時に「守さんが元気になりますように」と朝も昼も晩も祈ってくれているという話を施設の方から聞かされ、「闇の底に光を感じた」という。・・・・
「私が障害児の施設を訪問するのは、結局自分が救われたいからだと思います。私が彼らを救うのではない、彼らが懸命に生きる姿を見て、こちらの方が救われるんです。力をもらえるんです。私はどんな本よりも、そういう子から一番人生の意味とか力をもらいました。・・・」
前に当blogの別の記事で「ベートーヴェンは耳が聞こえなくても第九を作曲したが、それは何かの間違い。聞こえないのに、和音が認識できる訳がない・・・」(ここ)と書いた。しかし、この記事を読んで、それが間違いだったことが分かった。絶対音感とはそのような不思議なものらしい。
今更ながら日本にも、いや世界を見渡しても、耳の聞こえない作曲家が居ることにビックリすると同時に、聾の人の「灯台」として、頑張って欲しいものだと思った。
そしていつか佐村河内 守氏の交響曲を聞いてみたいものだ。
(2008/10/19追)
YouTubeで検索したら「佐村河内守:作曲 吹奏楽のための小品(神奈川大学吹奏楽部)」が聞けた。100人にも上る大吹奏楽団による非常に規模の大きな演奏。
前に当blogで取り上げた「小川寛興作曲 交響曲「日本の城」(ここ)」と似た、まさに現代音楽だった。
YouTubeでは、その後、TV放送された番組がアップされ、交響曲第一番の一部も聞けるようになった。
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