シューベルトの「あふるる涙」
日本人の自分が、(第九を除くと)唯一ドイツ語で(少しだけ)歌える歌が、シューベルトの「あふるる涙」である。言うまでもなく、歌曲集「冬の旅」の第6曲である。(訳によっては「水が溢れる」「洪水」「あふれる涙」「雪どけの水流」とか、色々な曲名になる)
先日、カミさんとスーパーの食料品コーナーを回りながらこの歌を口ずさんでいたら、「誰がウナっているのかと思った・・・」とカミさん・・・。(自分はドイツ語の歌を歌っているのに・・・・)
しかも「どんな内容の歌なの?」と聞きやがる・・・。「それは・・・???」(即答できるわけが無い)
とにかく聞いてみようか。ヘルマン・プライの歌である。
「あふるる涙」
溢れ湧く涙が私の眼から
雪の上にしたたり落ちる
つめたい雪片が、むさぼるように
熱い悲しみを飲みこんでゆく若草がもえ出ようとする頃には
なま温かい春風が吹きわたり
氷はわれて小さなかけらとなり
淡雪は消えてしまうだろう雪よ、お前は私の願いを知っていよう
とけて流れて、一体どこへ行くのだ
私の涙に従って行くなら
まもなく小川に行きつくだろう小川とともに町なかを流れて
にぎやかな通りを出入りするときに
私の涙が熱くたぎるのを感じたなら
そこに私の恋人の家があるのだ
思い出すと、この歌に凝ったのは、新入社員の頃だった。この歌を聞くと、会社の独身寮で、なぜか洗濯をする場面を思い出す。(どの歌も何かの場面を思い出すが、この歌は「洗濯」である)
フィッシャーディスカウのLPを買って、そして楽譜も買い込んで良く聞いた。そして覚えようとした・・・。
話は変わるが、世界3大テノールの一人として有名だったパバロッティが2006年のトリノ冬季オリンピックの開会式で歌ったものが、何と口パクだったことが明らかになったという。開会式でオーケストラを指揮したレオーネ・マジエラ氏が、最新の著書でバラしたらしい。
日頃思うが、歌手ほど大変な職業は無い。何せ自分の体が楽器なのだ。特にマイクを使わないオペラ歌手はごまかしがきかない。TVに出るような歌手は、昔の歌番組では当然だった口パクが幾らでも出来るが、マイクを使わない歌手では無理だ。体調によって声が出ない場合も有り得る。だからこのパバロッティの場合も、その場合を想定して予め録音しておいたらしい。
本番というのは、誰でも緊張する。スポーツの世界でもその本番に向かって体調を整えて行く。でも幾ら風邪をひかないように・・と注意しても、本番の朝になったら喉が痛くて声が出ない・・・ナンテ有り得る・・・・。
だから、声楽(歌)の世界やスポーツの世界など、自分の体を使う職業は大変だと思う。その点、サラリーマンは、体調不良には都合の良い職業ではあるな・・・。
(関連?記事)
映画「敬愛なるベートーヴェン」を見た
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コメント
小生も学生時代に、ドイツ・リートなどの歌曲に凝りました。当時は、シューベルトの3大歌曲集は全部ドイツ語(もどき?)で歌えたのですが、現在でも、ネロディは全部覚えています。
レコードは、フィッシャー=ディー素カウが大半でした。ディースカウは、シューベルトの他に、シューマン、ブラームス(これは、ハンス・ホッターが良かった)、フーゴー・ヴォルフ、マーラー、R・シュトラウスなど、大体揃えました(特にヴォルフにハマりました)フランス歌曲では、シャルル・パンゼラのフォーレ、ジュラール・スゼーのデュパルク、スペイン歌曲ではロス・アンへレス、
女性のシューベルト歌曲ではエリザベート・シューマン、彼女の「水の上にて歌える」は絶品!です。新しいところでは、キャスリーン・バトルのCDが素敵です(現在では、このCDがマイ・ベストです)
ヘルマン・プイの「冬の旅」は、約40年ほど前に、横浜のコンサートで聴きました。
彼の歌曲のレコードでは、「詩人トム」を含むカール・レーヴェ歌曲集がベストだと思います。
一昨年から、奈良の合唱団のベートーヴェンの「第9」に参加しています(パートはバス)、この本番の指揮者が、滝廉太郎の「秋の月」の歌唱を聴かせて頂きました三原剛先生です。
投稿: リュウ | 2010年1月24日 (日) 06:34
「あふれる涙」は、同じシューベルトの歌曲集「白鳥の歌」に入っています「わが宿」と共に、学生時代、よくNHKのど自慢で聴いた記憶があります。両方共、歌曲集の中では地味な曲ですが、日本人の心によくフィットする曲だと思います。
シューベルトの三大歌曲集で、他に日本人にフィットする曲と致しましては、「水車小屋の娘」の「水車屋の花」「好きな色」「若者と小川」、「冬の旅」では「ぼだい樹」「春の夢」「からす」「道しるべ」「ライエルマン」、「白鳥の歌」では「セレナーデ」「彼女の絵姿」[海辺にて」「鳩の使い」でしょうか?
投稿: リュウちゃん6796 | 2010年1月24日 (日) 06:54
最も幸せだった時に聴いたのがゼルキンのピアノで、『鱒』それから、プラハ弦楽四重奏団(うろ憶え)だったか、の『死と乙女』。最も苦しかった日々聴いたのが冬の旅の冒頭の歌、フィッシャーディースカウの名演、『おやすみ』そして『菩提樹』。菩提樹はシラーの詩だろうか、私にはこの詩こそは父親なるものの究極の姿ではないかと思っている。愛読書、ヘッセのクリングーゾル、春の嵐、クヌルプ。愛車は空冷フォルクスワーゲン、愛器がアルミン・グロップ(ギター)。どうしてこうもドイツが好きなんだろう。
【エムズの片割れより】
自分も同じような曲を聴いてきましたが、文学だけは遠いな・・・・・。
投稿: yakata1578 | 2011年4月 3日 (日) 11:22
私の素敵な先輩大澤氏ノリクエスト曲”あふるる涙”シューベルト作曲聞いてみたく思います。
投稿: 隈部紘介 | 2015年2月18日 (水) 07:10
この欄に書くのが適当なのかどうかはわからないのですが。
かなり以前、TVで「田村正和、近藤正臣主演で「冬の雲」という番組が放送されていたころ、ヴィルヘルム・ミュラーの「冬の旅」の「4」「かじかみ」と思わしき部分が、芦田伸介の語りで流されていた記憶があります。
何というドラマだったのか覚えていません。当時、同名の「冬の旅」というドラマがあったので、もしかしたら、そこでの語りだったのかもしれません。是非もう一度聞いてみたいです。
【エムズの片割れより】
芦田伸介の語りがある、TBS「冬の雲」の主題歌「苦しき夢」でしたら、当サイト2007年12月29日の記事で取り上げたことがあります。
投稿: 西 嘉昭 | 2015年4月19日 (日) 14:54
早速のご返事ありがとうございます。
じつは、貴兄サイトの「冬の雲」も懐かしく拝読させていただいておりました。
本来はそちらのサイトに投稿すべきだったのかもしれませんが、長く気になっていた「冬の旅」という言葉に引かれて投稿してしまいました。
どうやら「冬の旅」違いだったようです。
先にもありますが、こちらの「冬の旅」はヴィルヘルムミュラーの詩で、その詩の「かじかみ」という章に、
「私はむなしく雪の中に
あのひとの足跡を探し求める
・・・・・
私は大地に口づけしよう
なつかしい地面が現れるまで
・・・・
花はどこにある
緑の草はどこに
花は朽ち果て
芝生も刈れている」
・・・・
これは原約ですが、ほぼこれと同じフレーズで、芦田伸介の語りが流れていたように思います。
「冬の雲」の芦田伸介の語りは別なバージョンもあるようなので、もしかしたらそちらで流れていたのかも知らません。
この章とはあまり関係のない投稿で申し訳ありません。
草々
投稿: 西 嘉昭 | 2015年4月20日 (月) 19:25
家内がそれこそ全くフッと、70年前の高校時代に聞いた曲が有ると、それが「あふれる涙」でした。
ネットで見つけて、昔を懐かしみつつ聞かせてもらいました。ありがとうございます。
【エムズの片割れより】
一度頭に刻まれた旋律は、いつまで経っても残るようですね。
投稿: 及川棟雄 | 2019年1月14日 (月) 02:23