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2008年2月 9日 (土)

中島みゆきの「うらみ・ます」~非常に怖い歌・・・

無数にある歌のうち、「最も恐ろしい歌」として挙げるとすると、自分は躊躇無く中島みゆきの「うらみ・ます」を選ぶ。中島みゆきが泣きながら歌うこの歌は、それほど「怖い歌」なのである。
歌詞も怖いが、歌い方も怖い・・・。「女の恐ろしさ」がこれほどまでに表現されるとは・・・。また「歌」がここまで感情を表現できる手段になり得るのだという“見本”だ。
この歌はスタジオライブで、一発で録音OKになったという。実際に聞いてみると、確かにこの歌は、カラオケとともに後から歌だけ録音するような手段では、到底実現できない事が良く分かる。
バックも含めて実に緊張感あふれる一発録音であり、最後のフレーズの「死ぬまで~~」と中島みゆきが伴奏なしで声を伸ばしていて、バックが伴奏を入れるタイミングも、あまりの緊張感から、バックが待ちきれなくて音を発してしまうのも聞きどころ・・・・。まさに、ライブならではの緊張感がみなぎった録音である。少し聞いてみよう

<中島みゆき「うらみ・ます」>

「うらみ・ます」

 作詞・作曲 中島みゆき

うらみますうらみます
あたしやさしくなんかないもの
うらみますいいやつだと
思われなくていいもの

泣いてるのはあたし一人 あんたになんか泣かせない
ふられたての女くらいだましやすいものはないんだってね
あんた誰と賭けていたの あたしの心はいくらだったの
うらみますうらみます
あんたのこと死ぬまで

雨が降る雨が降る
笑う声のかなたから
雨が降る雨が降る
あんたの顔が見えない

ドアに爪で書いてゆくわ やさしくされて唯うれしかったと
あんた誰と賭けていたの あたしの心はいくらだったの
うらみますうらみます
あんたのこと死ぬまで

ふられたての女くらいおとしやすいものはないんだってね
ドアに爪で書いてゆくわ やさしくされて唯うれしかったと
うらみますうらみます
あんたのこと死ぬまで
うらみますうらみます
あんたのこと死ぬまで

朝日文庫の「中島みゆき全歌集」の解説で、谷川俊太郎が「うらみ・ます」についてこう書いている。
「・・・「うらみ・ます」を初めて聞いて、たじろがない人はいないのではないか。泣きながら歌う中島みゆきの声は余りにも私的だ。実際に彼女は特定の誰かをうらんでいて、その感情をまっすぐに歌っているのだと私たちは思いこむ。同時に私たちはそれが演技なのではないかとも疑う。・・・・・・
080209uramimasu ・・・例えば題名の「うらみ・ます」のうらみとますの間に入っている黒い小さな点は、いったいなんだろうというようなことが気にかかってくる。一息に言うのではなく、いったん息をのみこんでいて、その微妙なためらいのようなものが、うらんでいる自分をみつめる、もうひとりの自分の存在を感じさせる。黒い点はいわばからだからわき出る自然な感情の流れを、意味で中断する。
・・・・レコードの「うらみ・ます」はスタジオライブで、しかも1回だけの録音でできたということだ。そういう選択にも作者の意図が感じられる。それは賞をもらって泣く新人歌手の涙とは、似ても似つかぬものだ。・・・」

前に家族で旅行に行ったとき、旅館の地下のカラオケボックスで、自分がこの歌を歌ったら、皆が「怖~い~」と恐れおののいた。(そもそもこの歌は、酔っ払ってカラオケで歌うような歌ではないのだが・・・)
中島みゆきが自分のコンサートで、この歌を歌うとは思えないが(そんな軽々しい歌ではない)、この録音(の瞬間)だけが永遠に息づいて行く(命を保って行く)、そんな“怖ろしい”歌である。とにかく中島ゆみきは大大・・・大歌手である。

(2018/06/12追)~中島みゆきの本に、この歌に関する記述があった。谷川俊太郎氏と中島みゆきとの対談記事である。

「・・・・・・
中島 愉しいから……ねえ。うん、そうとは言いきれないですね。あたしの歌、あんまりランランランと愉しい歌って、ないんですよね。そういうのも書けるようになれたら、もっと私自身ね、人あたりが良くなるんでしょうけども、まだまだ、人に冷たいんですよね、あたし。
 でね、たまーにね、自己嫌悪に陥っちゃうの。
谷川 その結果としての歌を書くっていうことになるわけ?
中島 うん(笑)。それにさ、あたし、人の悪口、いっぱい書いてるから。
谷川 それも、あなたの言う罪のなかに入ってるの?
中島 入ってる。
谷川 やっと具体的に、罪が出てきたな(笑)。それじゃ、私小説的にあなたの歌を聴いていいわけだ。
中島 私小説って何だっけ。あ、そうか。そういうことになるのかな。
谷川 でも、まさか小学校のときには、そんな歌を書いてたんじゃないでしょう。
中島 身の回りのことだったと思うから、いまと似たようなもんじゃないかな。
谷川 その当時から男友だちへの恨みを書いてたなんて、ちょっとね。
中島 あはは……。そういえば、もてなかったもんなあ。
谷川 その恨みつらみで歌を書いてるの?
中島 そう。もててりゃ、歌なんか書きゃしなかった、なんて(笑)。
谷川 小学校で習った唱歌の添削じゃない歌は、いつごろから書き始めたの。
中島 中学校ぐらいからじゃないかな。人前に出す歌じゃなかったけど。個人的なうさ晴らしみたいなのが多くって。
谷川 いま歌を書くときも、やっぱり、口に出しても本当はしようがないと思えることを書いて、解放しているというところもあるんじゃない?
中島 そうですね。やっぱりそうでしょうね。それでもまだ、ごく個人的な、名前とかね、そういうのは極力書かないようにしてるつもりなんですけれど……。
谷川 それまで書いたら、もっとすごい歌になるわけだ。
中島 あらー、そしたら、明日からお遍路さんに出なきゃならなくなっちゃうわ。
谷川 何だか、マグダラのマリアみたいに罪深い人なんだね(笑)。じゃ、「うらみ・ます」なんかは、どうなんですか。あれ、アルバムのなかでは泣き声になってるでしょう。
中島 あ、そうですか。それ、よくボロクソに言われるんですよ。聞きづらいから、もうちょっとちゃんと声の出てるテイクのをね、OKにしてレコードとしては出すべきじゃなかったのかって。だけど残念ながら、あれは、一回しか録音しなかったんですよね。
谷川 あの歌は、どんな状態で録音したんですか。
中島 あれはスタジオライヴつていうのかな。ミュージシャンと大体の流れを合わせておいてから。
谷川 じゃ、マルチーチャンネルで録ったんじゃなくて、生演奏で。
中島 ええ。
谷川 あれ、本当に泣いてたの?
中島 おしえてあげないの。
谷川 そのへんは、自分の意識のなかでは分けてたんですか。これは本当に泣いてるわけじゃない、というふうに。
中島 おしえてあげないの。
谷川 じゃ、本気なんだ。泣きたくはなかったの?
中島 おしえてあげない。
谷川 だけど泣かずにはうたえなかったわけですか。
中島 おしえてあげない。
谷川 ありがとう。おしえてくれなくて。あなたの歌みたいにすてきな答えかただね。でもさ、しつこいけど、リテイクすることだってできたわけでしょう。だけど、あのテープがいいということになったの?
中島 あのLP全体をね、いってみれば実況中継でつくってみようってつもりだったの。
谷川 あなたの歌が私小説的であるとすると、自分がいままでつくってきた歌を振り返ってみたときには、それまでの生活の軌跡が自分でわかるわけですか。
中島 軌跡……ですか? ちょっとまだ、それはどの意識ではないですね。」(
新潮文庫「中島みゆき ミラクル・アイランド」~対談:谷川俊太郎/中島みゆきp14~17より)

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コメント

うーん、さすがです、酔ってカラオケで「う・ら・み・ま・す」、凄い!

小生は酔わないとカラオケ出来ないシャイな人間ですが(素面だと自分の歌の貧しさに自己嫌悪に陥りますので)、「う・ら・み・ま・す」は歌った事はありません(悪酔いしそうなので)
せいぜい、「江レーン」、「歌姫」、「二ソウの船」(変換出来ない!)、「生きていくおまえ」止まり、

アルバム「生きていてもいいですか」の最後の「異国」という曲も、みゆきさんが慟哭しながらの歌唱です(これは、長ーい曲)

小生と致しましては、最近はこのアルバムの中の「蕎麦屋」がスローライフな曲で、よく歌っています。

みゆきさん、大相撲嫌いなのかな?

投稿: リュウちゃん6796 | 2010年1月25日 (月) 23:01

「うらみ・ます」はじめて聞きました。
「地上の星」(力強い歌声)が泣いてるんですよね!!

最初、誰?って思ってしまいましたが、それは中島さんの感情が完璧に出ているからですね。
まるでライブのような歌声の、「あんた」をうらんでいる彼女に幸あれ。
切ない気分です。
怖いとは思いませんが、すごい人です。

【エムズの片割れより】
まさにスタジオ“ライブ”ならではの録音ですね。カラオケで歌ったのではとてもこんな歌にはならない・・・。まさに中島みゆきは大物ですね。

投稿: | 2010年11月22日 (月) 15:01

 私は昔から中島みゆきさんの大ファンです。私がまだうら若き乙女の頃失恋したことがありました。この曲があったならテープに吹き込んで相手に送り付けて聞かせてやったかも知れません。フフフ

今は娘と月に1度カラオケに行くので今度歌ってみようと思います。

【エムズの片割れより】
ナヌ・・? この歌を、昔の記憶と共に歌うって?? おーコワー・・・

投稿: マングロン | 2011年4月22日 (金) 20:36

初めましてU・Mと申します。
高校生の頃みゆきさんのオールナイト
ニッポンを聴いてみゆきさんのファン
になり、すぐにこのレコードを買いま
した。
初めてこの曲を聴いた時は、怖くて
泣いてしまいました笑

【エムズの片割れより】
本当に怖いですよね。みゆきさんは経験者??

投稿: U・M | 2011年5月 5日 (木) 22:31

中島みゆきの曲は地上の星などを通して知るようになりましたが、このごろ特に興味をもちだしました矢先にこの曲を聞くことになりました。びっくりしています。彼女の曲を集中して聞いて見たくなりました。自作自演の俳優のようですね。『うらみ・ます』も面白いタイトルですね。想像を掻き立てるではありませんか?その点、心裡を巧みに掴んでいますね。音で小説を書いているようですね。脚本も書き、演出もし、演じることもできると言う、マルチのタレントですね。彼女は・・。

【エムズの片割れより】
さだまさしも天才だと思いますが、中島みゆきもまさに天才。その世界は広大で、到底ついて行けません。

投稿: 中野 勝 | 2011年7月21日 (木) 04:41

数年前カラオケ居酒屋の雑踏の中でこの曲を初めて聞いた。 
歌詞等は全く聞き取れなかったが、唄はお世辞にも巧いとは言えないのに
「怖い」云う感覚だけが強く突き刺さった。
常連さんが言うには 彼女、他の歌は唄わずこの歌だけ唄うんだとか。
体が震えた。彼女には決して近づくまい!と。
「うらみ・ます」だけが耳に残る。
あらためて曲を検索する気に成れたのは
彼女の姿を見なくなってから3年。
彼女は未だ唄ってるんだろうか。

【エムズの片割れより】
おお怖い・・・・。そんな話を聞くと、自分は“女性には決して近付くまい・・・”と。(←これウソ)

投稿: まゆみ | 2011年12月27日 (火) 15:29

僕はこの歌は壮絶なラブソングだと思って聴いています。
振られてすてられても、あなたが私を忘れてもあなたのことを思っています、死ぬまであなたを愛し続けますとゆう風に聞けます。
うらみますと歌いながら心では愛していますと歌っていると思います。
相手を傷つけるとゆうことではなく、
ただ、相手を思い続ける、
壮絶ならぶそんぐ、、。

【エムズの片割れより】
言われてみると、確かにそうですね。相手を諦めて気にしなければ、恨む必要も無いわけで・・。恨むという行動を通して、思い続けている・・。なるほど。そうですね・・・。

投稿: ジン | 2012年3月30日 (金) 02:44

この歌は確かに怖い歌だと思われがちですが、本意はあなたを愛していますという歌だと思います。
捨てられて愛してます、と言えなくて、ただうらみますとしか言えない女の歌です。
恨んで男に復讐しようとかストーカーになってやるとかいう意味でなく、裏切られ、捨てられても自分の心の中で貴方を死ぬまで愛し続けますという歌だと思います。
うらみますの歌詞の所を愛してますとうたっているんだと思ってもう一度聴いてみて下さい。
全く別の歌になりますよ。

【エムズの片割れより】
まったくその通りだと思います。そんな気持ちで聞いてみると、最初の「うらみます」という歌い方も、可愛く「うらみます」と歌っていますね。
しかし中島みゆきの世界は、深いですね。

投稿: 仁 | 2015年8月17日 (月) 02:32

すみません水を指すようですが、この歌の本当の恐ろしさは、人の弱味に漬け込む男の下心です。
女を怖くしたのは男です。

【エムズの片割れより】
その通りですね。

投稿: てん | 2015年11月27日 (金) 22:19

はじめまして。
「あぐら物語日記」のrokoと申します。
本日こちらの記事を紹介させていただきましたのでお知らせします。
ありがとうございます。

やっぱり…みゆきさんの「うらみ・ます」♪よね(*^^)v
 http://roko1107.blog.fc2.com/blog-entry-3976.html

ところで、谷川俊太郎氏の文章の中「もうじとりの自分の存在を感じさせる。」という部分、私には「もうひとり~」としか思えないのですが本文を見ていないので何とも言えません。ただ、気になって気になって…。
誠に勝手ですが、この点について教えていただきたく宜しくお願い致します。

【エムズの片割れより】
ご丁寧にありがとうございます。
それと、誤字、大変失礼しました。キーがひとつ滑ったようで・・・。修正しました。
ついでに、オリジナルの文の画像をアップしました。

投稿: roko | 2017年9月17日 (日) 19:02

エムズの片割れ 様
早速の修正とオリジナル画像UP、感激いたしました。
歌詞を見ながら心を込め一人歌いますとただただ涙が溢れます。
このような歌と記事に出会えて幸せに思います。

ありがとうございます!

投稿: roko | 2017年9月17日 (日) 23:24

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