ジェームス三木の「憲法はまだか」を読んだ
ジェームス三木の「憲法はまだか」を読んだ。珍しく一字一句を精読した。一つひとつの事実が重く、読み流しが出来ない作品だった。その意味で、心に留まる良い作品だと思う。
この小説は、先日NHKアーカイブで見たTVドラマの「憲法はまだか」の小説版であり、どうも小説よりもNHKドラマの脚本が先に出来たらしい。
結果として、筆者は護憲論者と最後に述懐しているが、最後まで中立の立場で客観的に書いており、改憲派・護憲派それぞれの臭さが無く、気持ちよく読めた。
また会話はフィクションにしても、一つひとつの事実関係は、まさに事実であろうので勉強になった。この小説で、気になった文言(&事実)を抜き出してみると・・・・
・「昭和20年の日本人の平均寿命は、男性23.9歳、女性37.5歳である。」(P62)
・「・・・マッカーサー個人にまつわるふたつの謎に言及しておきたい。・・・なぜ天皇の地位を擁護したかである。・・・・65歳の大柄なマッカーサーが、44歳の小柄な天皇に、父性愛に近い感情を持ったとしても、決して不思議ではない。・・・・もうひとつの謎は、戦争放棄条項の発案者は誰かということである。・・・筆者はやはり、マッカーサーの提案が先であり、幣原首相が同意したと考える。」(P141)
・「憲法草案作成に直接関わったメンバー、つまり民政局行政部員だけなら24名(軍人14、民間10)、翻訳担当者を加えれば、26人である。ただしこの数字は、必ずしも正確とはいえない。もっといたかも知れない。・・・」(P169)
・(ハッシー中佐)「すると大佐は、再軍備を認めると・・・」 (ケーディス大佐)「認めるわけではないが、エルマン中尉も指摘した通り、軍隊を持たない独立国家は前例がない。少なくとも国家には、国土を守る権利があるはずだ。ひとりひとりの個人に、人権があるようにね。敵の攻撃を撃退してはいけないとまでは、いえないでしょうが・・・」(P188)
・「・・・・日本に進駐したアメリカ人は、ざっと20万人、そのうち女性はたったの60人だから、3千分の1だ。魅力的なベアテが、もてまくったのは当然だ。」(P204)
・「・・・『憲法の前文が出来ました』『読んでみて』・・・ケーディスは大きな拍手をした。『最高だ。歴史に残る名文だな』『これは日本の憲法でなくて。世界の憲法ですよ。思わずからだが震えました』『あのハッシー中佐がね』・・・・」(P253)
・「朝鮮戦争は、日本に驚くべき変化をもたらした。・・・・・・かつて豊臣秀吉が、2度にわたって朝鮮国を蹂躙し、略奪のかぎりをつくした。日清戦争では、朝鮮半島が戦火にさらされた。その後、伊藤博文は韓国を併合し、植民地とした。そして戦後日本の経済は、朝鮮戦争によって立ち直った。こうした歴史の流れは、日本人として、心に留めておくべきだ。・・・」(P407)
・「・・・アメリカでは『日本国憲法』に関わったGHQ民政局員が、箝口令を敷かれたまま、ずっと沈黙を守っていたが、マッカーサーが1964年に84歳の天寿を全うすると、少しずつ重い口を、開く者も出てきた。
新憲法制定時の経緯については、日米のすぐれた学者の研究書が、たくさん出ている。浅学非才の筆者がこの小説を書けたのは、それらの研究書があるからだ。
では何のために筆者は、この小説を書こうと思い立ったのか。それは『日本国憲法』に関わった人々を、記録の隙間から、人間として立ち上がらせ、心臓に鼓動を与え、呼吸をさせ、感情と性格を蘇らせたいと、思ったからである。
筆者が心がけたのは、それぞれの人物の思いや主張を、できるだけ公平に描き、誰の立場にも、建たないことであった。だが実際には、至難なことであり、知らず知らずのうちに、個人的な好き嫌いが、出てしまったかも知れない。・・・・」
この小説は「人はみな歴史の中継ランナーである。祖先から受け継いだ大事なバトンを、子孫に渡さなければならない。・・・」という書き出しで始まり、「・・・人はみな歴史の中継ランナーである。」で終わっている。
まさにこの言葉が、この小説の中心線だ。
今朝(5/27)の朝日新聞(P4)に、以下の記事が載っていた。
「憲法60年 社説の評価は 全国の新聞調べてみると 9条改憲・・・賛成:読売・産経・日経/反対:朝日/中間的:毎日」
全国紙でもその論調は様々だ。
やはり大事な事は、風説に惑わされず、自分自身の心でしっかりと事実を掴み、判断することだろう。
自分も、当分は事実認識・確認の域を出ないだろう。ただ一ついえることは、拙速だけは避けるべきだ。
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