« トイレ行列で「お先にどうぞ」~後の人から「勝手に譲るな!」 | トップページ | 沖縄旅行~その1 »

2017年12月 5日 (火)

自分の毒をどこに吐く?

先日の朝日新聞の記事。
「(日曜に想う)暮れの日々、不機嫌に一利もなし 編集委員・福島申二
 エッセーや小説を読んでいて、さりげなく差し挿(はさ)まれたようなひとことが胸にしみるときがある。
 信州で暮らす内科医にして芥川賞作家の南木佳士(なぎけいし)さんの書くものには、そうしたひとことが目に留まり、思いを深くめぐらすことが私には多い。医師として夫としての私的な来し方を描いた短編「白い花の木の下」から引く。
 「この身が生きのびるために言葉や態度に載せて排出した毒を吸ってくれる者がいて、だからこそいまこうして生きて在る」。そんな自らの罪業の深さに思い至った夫は、にわかに妻にやさしく接するようになったと文は続いていく。
 生きるために食べて排泄(はいせつ)するのはだれもが知っている。加えて人間というものは、心の中に絶えず「毒」が生成されていて、それを言葉や態度に載せて外に逃がさぬことには生きていけない厄介な存在らしい。胸に手をあててみれば、自省の痛みを引きつつ南木さんの一節にうなずく人は、少なくないと思う。
 日々の明け暮れのなかで、ありがたくも毒を吸ってくれる近親の者がいる。しかし、仕事上、他人の毒を吸わされる人もいる。震えるような悔しさで客の毒気に耐えている人の多いことが、流通や小売りなどの労働組合でつくるUAゼンセンの実態調査から浮かび上がった。
     *
 百貨店やスーパーなどで働く約5万人にアンケートで聞くと、7割以上が悪質なクレームを経験していた。暴言が最も多いが、説教や威嚇といった行為も目立つ。土下座の要求もあったという。
 一つひとつの事例は、言葉や態度に載せて吐き出される毒また毒の連続で、読んでいるだけでつらくなる。
 いくつかを挙げると――。
 商品の返品時に「おまえはバカか、謝るしかできないのか、言葉がわからないのか」と1時間近く電話で言われた。
 在庫がないと伝えると「売る気がないのか。私が店長だったらお前なんかクビにするぞ」と延々怒られた。
 混み合う時間に、レジが進まないのはお前のせいだと言われ、並んでいる間ずっと怒られ続けた。
 これは氷山の一角で、厄介な相手の年齢性別はさまざまだ。このような理不尽が最近増えていると感じるか、との問いには5割が増えていると答えていた。
 せつない一首を思い出す。
 〈わたくしの正しき事は主張せず客の激しき言葉に耐へゐる〉山口英子
 30年ほど前に出た「会社万葉集」(光文社)という本の中に見つけ、ノートに書き写した歌だ。作者の詳しい職種はわからないが、唇をかむように自分を押し殺す姿が浮かんで痛々しい。
 言った側は忘れても、言われた側は長く尾を引く。小売店舗にかぎらない。日本中のサービス業の現場で一日に吐かれる毒の総量は、一体どれぐらいになるのだろうと想像すれば空恐ろしい。
     *
 人が暮らしていくうえで、法律より広くモラルや常識の守備範囲がある。法律は人に、店で高飛車になるなと命じないし、他人に毒づくなとも言わない。しかし今、さまざまな場面で、人間社会の潤滑油というべきその守備範囲が、哀れに細っているように思われてならない。
 さて、今年も師走である。
 せき立てられるような季節は、腹の中に険しい感情をためやすく、言葉や態度に載せた毒がその量を増すときかもしれない。作家の幸田文は昭和の半ば、せわしい年の瀬の情景を小紙に寄せた。
 「歩道だって素直には歩けない、人がみんなやけにぶつかって来る。いきおい、そんならこっちからもぶつかってやれという気になって侘(わび)しかった」
 さすがにこの人は、心中に生じかけた毒を自らそっと解毒したようだ。
 聞くところでは、こうした毒の「大排出源」は男性の中高年世代というのが一説らしい。近しい人なら後で赦(ゆる)しも乞えるだろうが、どなたかとの、たまさかの一会(いちえ)を毒で苦いものにしたくはない。
 お仲間の一人として毒消しのゆとりを心身に保ちたいと思う。暮れの日々、不機嫌オーラに一利もなしと胸に畳む。」(
2017/12/03付「朝日新聞」p3より)

なかなか含蓄のある一文である。とても他人事とは思えない・・・
「人間というものは、心の中に絶えず「毒」が生成されていて、それを言葉や態度に載せて外に逃がさぬことには生きていけない厄介な存在」という指摘は、なるほど・・・と思う。
いわゆるノイローゼ。心のモヤモヤを外に向かって排出できる人は罹らないし、内にこもる人はなりやすい。だから自分を守る為に毒を外に出す・・・?
そう考えると、「毒の「大排出源」は男性の中高年世代」の原因は何だろう?
家の中では、カミさんの毒消しに追われ、会社では上司の毒消しに追われる。よって、自分の毒は、無料でかつ安心して毒を受け取ってくれる、店員さんやコールセンターに向かう、ということになる。
でもその相手はたまったものではない。

そもそもこれは“お客さまは神さま”から来ているのかも知れない。周知のように、これは日本だけの文化らしい。欧米に行くと、“売ってやる”が基本的なスタンス。これは単なる役割分担の考え方から来ているのだろう。
これを見直そうという機運になっているのは、ヤマト運輸の最近の改善にも見て取れる。

昔、現役の時、電力会社に納めたシステムでトラブルと、その説明と謝罪が大変だった。それでいつも「オレだって電気料金を払っている立場からすると、電力のお客だ!」と毒づいたもの。でも同僚から「お客のところで、それを言ってみたら?」と茶化され、「言えるワケないだろう」と・・・

上の指摘、自分にも心当たりが無い訳でもないので、心することにしよう。しかし、自分のはけ口をどこに求めるか?
何せ、「人間というものは、心の中に絶えず「毒」が生成されていて、それを言葉や態度に載せて外に逃がさぬことには生きていけない厄介な存在」なので・・・

171205gatagata <付録>「ボケて(bokete)」より


« トイレ行列で「お先にどうぞ」~後の人から「勝手に譲るな!」 | トップページ | 沖縄旅行~その1 »

コメント

南木 佳士さんの「ダイヤモンド ダスト」を読んだのは1990年ごろか?医者と物書きという両刀を使いこなす人は何人もいたと思いますが作家本業を目指さず休日の限られた時間を執筆に充てる姿に新田次郎や 小倉時代の松本清張を重ねて興味を持ちました。寡作のひとで次作を探すのが大変でした。仕事の中で「多すぎる死との付き合いにつかれパニック障害からうつ病を患うことになったと知りました。
しかし奥さまの協力もあって 山歩きを始められ徐々に徐々に回復されていく様を 「山雑誌への紀行文」で見つけた時は本当にうれしかったものです。
エムズの片割れ様のブログで南木さんの名前をみつけるとは!まだ佐久総合病院で仕事をされているのかな?彼のエッセイもいいですよ。新作を探さなくては。刺激をありがとうございます。

【エムズの片割れより】
南木佳士という人を知りませんでしたが、WIKIで「阿弥陀堂だより」の作者と知ってビックリ。
この映画について記事を書いたのが、11年も前。そのテーマも大好きです。
http://emuzu-2.cocolog-nifty.com/blog/2009/06/post-6f88.html

そうですか・・・・。
急に身近に感じられました。

投稿: todo | 2017年12月 7日 (木) 06:53

私の毒消しは落語と海外ドラマとうた物語そしてこの「エムズの片割れ」です。
いまはYouTubeで落語の動画をみて思わず声を出して、ひとりで笑ってしまいます。昔はテープを買ったり、寄席に行ったりしていましたが、いい世の中になりなした。心して落語を聴くようにしています。
 
 昨日聴いた「小遊三の野ざらし」(動画)に一人大笑いをしてしまいました。また海外ドラマは各国の歴史ものやミステリーものを見ています。見られないときは録画してみています。
 うた物語は主幹の方の解説とその歌に寄せられるコメントを拝読していると、気持ちが爽やかになります。
 「エムズの片割れ」は私にとりまして、社会の窓です。ありがとうございます。

 既に現役ではないのですが、笑ったり、妄想したりして過ごしています。

【エムズの片割れより】
落語というと、小学校5年生のときに、鉱石ラジオを作って、勉強部屋で机に向かい、一人聞いてはニヤニヤしていました。
10年ほど前に、寄席にホンモノを見に行きましたが、なかなか話の世界に入り込めず、笑えませんでした。

投稿: patakara | 2017年12月 7日 (木) 09:56

50歳ぐらいの時、セールスに来た人があまりにしつっこかったので、怒って帰らせました。あとで「言い過ぎたかな」と思いながら考えました。この世の中で一番怒られないのは主婦ではないかと。夫には怒りをぶつけられるし、上司もいないし、自分の裁量で都合よく善悪を決められるし、世間に対しては文句を言っていればいいのだ。それでもストレスがたまるのはどうしてなんだろうかと、忘れるということが不得手なせいかもと思いつきました。特に夫の悪行は死ぬまで忘れない、いつも腹が立つと小出しにして嫌味をいっている。ところが夫は忘れるのが得意でストレスにならないのだ。それがまた私のストレスになる。イタチごっこで終わるのでしょうか。「毒を以って毒を制す」夫の毒を上回る毒を考えることにします。頭の体操です。

【エムズの片割れより】
実に客観的に自己を見つめておられて、素晴らしい!
反面、“その現実”に、白萩さんの夫君と一緒に「哀れな亭主の会」でも結成して、「下僕反対運動」でも始めたくなりました。

投稿: 白萩 | 2017年12月 9日 (土) 10:10

私も溜めてしまう質なので、なかなか毒を吐くことは・・・

https://blog.ez-design.net/archives/187
そうですか、Radikoolのほうは終了ですか・・・

【エムズの片割れより】
「開発終了」とかありましたが、何かトラブっていますか?PCをチェックしたのですが、我が家は順調に録音中ですが・・・

投稿: マッノ | 2017年12月 9日 (土) 13:33

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« トイレ行列で「お先にどうぞ」~後の人から「勝手に譲るな!」 | トップページ | 沖縄旅行~その1 »