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2011年9月19日 (月)

瀬島龍三氏のビジネス~室伏稔氏の「私の履歴書」より

今月の「日経新聞」の「私の履歴書」は、元伊藤忠商事会長の、室伏稔氏だ。先日の記事に、かの瀬島龍三氏のビジネスについて書かれた一文があった。ビジネスマンにとって、実に示唆に富む一文である。少し読んでみよう。

「私の履歴書  室伏稔氏
  仕えやすい上司~相手引き込む交渉 驚嘆
業務本部長の瀬島龍三さんは厳しいが、仕えやすい上司でもあった。指示が常に明快かつ的確だったからだ。不明瞭な報告をしたり、瀬島さんの指示を履行していなかったりしたら、しばしば雷が落ちた。ただ、特徴的なのは部員に雷を落としてしばらくすると、ふらっと我々の部屋に入ってこられて、叱った部員に必ず何か言葉をかけることだった。気配りを忘れない人だった。
日常業務で指導されたのは、①報告書は必ず紙1枚にまとめる②結論を先に示す③要点は3点にまとめる――の3点だ。3枚上の報告書は絶対に受け取らず、突き返していた。また「どんな複雑なことでも要点は3つにまとめられる」が口癖で、我々に物事の本質を見極め、整理する習慣を身につけさせた。
 瀬島さんには、いすゞと米ビッグ3との提携など外国企業との交渉の場に何度も出て頂いた。その交渉ぶりはある意味で「神わざ」だった。まず、こちらの主張に対する相手側の出方、返答をあらかじめ読んでおられた。大抵はその通りに展開したが、まれに予想しない答えが返ってきた時には、通訳に対し「僕の言葉を正しく通訳したのか」と言われるほど自分の読みに自信を持っていた。
 瀬島さんは交渉の場では、メモもみないで話をされたが、その論理性と説得力に途中から相手側がぐんぐん引き込まれ、熱心に聞くようになるさまは驚きだった。いすゞとフォードとの提携交渉は結果的には成立しなかったが、途中でフォードの副社長が瀬島さんについて「自分が接したアジアの要人、ビジネスマンであんなに頭の切れる人は初めてだ」と感服していたのが印象的だった。
瀬島さんの交渉の別の特徴は、知らないことは「知らない」と率直に答え、「調べてご返事する」と約束し、必ず実行することだった。時に、こちら側に都合の悪いことも一切隠さず話されていたことも、人の信頼を得る道として、私は目を開かされた。
「用意周到、準備万端、先手必勝」――。交渉や事業の着手にあたって瀬島さんがよく口にされていた言葉である。とにかく徹底的に準備をしてから事を始め、とにかく相手に先んじることが必勝の道という教えだった。
商社の収益源の柱はかつての貿易取引の口銭から、事業投資による配当、利益分配に移った。その戦略も瀬島さんが先駆けとなった。特に資源開発については「石油や鉱物資源を取引だけでなく、資本で押さえることは長期的な会社の利益になるだけでなく、国益につながる」と主張され、大型の投資を相次いで主導された。そのなかには、豪州のマウント・ニューマン鉄鉱山、インドネシアのNATOMASの石油権益など伊藤忠の発展の大きな力になった案件も少なくなかった。
 振り返れば、瀬島さんの部下からは青柳健二さん、高原友生さん、林俊範さん、大木公治さん、柿澤國男さん、降旗健人さん、後藤茂さんら伊藤忠の経営陣に加わり、成長を支えた人たちが輩出された。
 2007年9月4日、瀬島さんが亡くなられた。10月17口に東京・築地本願寺で伊藤忠と瀬島さんが理事長をされていた亜細亜学園の合同葬が行われ、私は葬儀委員長を務めた。
それが私の伊藤忠商事相談役としての最後のつとめとなったことにも何かの縁を感じた。(元伊藤忠商事会長)」(2011/09/18付「日経新聞」p32「私の履歴書」より)

元(?)ビジネスマンの自分にとっても、実に示唆に富む話である。
瀬島龍三氏は言わずと知れた元大本営参謀。シベリアに抑留され、帰国後、伊藤忠商事で会長まで上り詰めた人。その人生は、山崎豊子の小説「不毛地帯」の主人公にも投影されている。
これらビジネスの基本を改めて示されてみると、まさにビジネスは、人と人との信頼関係(組織は所詮、人・・)と、時間を如何に有効に使うか、に掛かっているように思う。

自分も今、シルバーの世代に突入して、改めて現役時代を振り返ると、如何に自分が未熟だったかを思い知る事が多い。まあ今更やり直したいとも思わないが、やはりビジネスの基本は、「人間を磨かなければ、何も始まらない・・」と、思う。その点、自分はそう自慢できる経歴ではなかった・・・。
でも筆者が、瀬島さんのような上司に恵まれたというのも、出会いの偶然もあるだろうが、やはり優秀な上司から“見込まれる”ことが必要。つまりそれも筆者に実力があったればこそ・・・。
自分はもう過去形だが、現役のビジネスマンにとっては、まさに参考になる一文ではある。


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コメント

瀬島龍三なる人物を私は名前しか知る機会を持たなかった。ビジネスは騙しあいという時代に会ったような気がする。特にバブル期においては。何を血迷ったか、技術陣が営業の先頭に立って、騙しあいをやっていた時代を目撃した。私は、開発する側から、先ず開発したものの問題点、不十分な点を先ずは話した。使う側が一番知りたい事は開発品の長所ではなく、欠点である。使う側の論理で開発は進むのである。それは人間として当然のことではないのか?。人間として当然のことをしない人がいかに多いか、と言う現実を私は、見てしまった。当たり前のことを当たり前としなかったことの報いを日本も世界も受けているのが現実である。瀬島氏も人間として当たり前の人であったのであろう。当たり前の難しさでもある。当たり前に生きれば、頭脳は明晰になるはずである。

【エムズの片割れより】
昔、現役の時、ある上司が「当たり前の事を当たり前にやる事を今期の目標にする」と宣言した。
次の期に、その上司は、その目標を取り下げた。当たり前のことを当たり前にやることがあまりにも難しく、到底実行不可能だと悟ったから・・・
原発事故も含めて、当たり前の事ほど実行困難な事は無いのかも知れませんね。

投稿: 金子 次郎 | 2011年9月20日 (火) 05:09

私も長年商社に勤めており、海外生活も長いが今回の室伏氏の文章には感銘を受けることが多い。瀬島龍三氏に関しては賛否両論があるようだが、結果を見る限りは伊藤忠をあれだけの組織に発展させた功績は大きいのだと思う。
今の日本を外から見ていると、政治にも企業にも、日本という単位で国を引っ張れる人物がいないことが、現在の日本の凋落を招いているように思う。
今の政治に掛けていることは、人気取りは多いが、嫌われることを覚悟で政治に当り、ひとつの目標を完結させることだと思う。

【エムズの片割れより】
その通りですね。強いリーダーの不在・・・。
おっと、一人居ましたね。プーチン!?強過ぎると独裁の色が出てくるので、これはこれで問題ですが・・・

投稿: イニシャルK | 2011年9月30日 (金) 03:12

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