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2009年7月 5日 (日)

毎日放送「映像07 夫はなぜ、死んだのか」をみて

先日NHK BS2で放送された「ザ・ベストテレビ」で、第28回「地方の時代」映像祭グランプリ作品の、毎日放送製作「映像’07 夫はなぜ、死んだのか~過労死認定の厚い壁」をみた。(2009/6/14放送)(~なおこの番組は、YouTubeに5つに分けられて載っている⇒ここ

ナレータは言う。
「内野博子さん(37)は、現在派遣社員で二人の子供を育てている。トヨタ自動車(堤工場)に勤めていた夫は6年前(2002年2月)、残業中に倒れ30歳で(致死性不整脈で)亡くなった。典型的な過労死だった。ところが労働基準監督署は労災の申請を棄却。棄却の理由は、倒れた時に一緒にいた上司が思いも寄らぬ証言をしていた。「長時間勤務は無かった。勝手に会社に残っていただけ・・」。
世界を席巻する日本の自動車産業。その躍進の裏で、過労死や過労自殺などが後を絶たない。過酷な労働の実態を認めようとしない国や企業を相手に、たった一人で裁判を戦った女性の記録です。・・・」

この番組で、多くの問題点を指摘していた。番組は次のように進む・・・
夫はなぜ、死んだのか~過労死認定の厚い壁」毎日放送製作
・“午前4時51分”の、会社からの夫が倒れたとの電話の留守電が残っている。
・亡くなる前の1か月間の残業時間は、博子さんが過労を心配して記録していた帰宅時間や、携帯電話の記録等の資料から、144時間35分あった。しかし工場の人事担当者の言い分とは食い違いがあった。(トヨタの工場勤務は、6:25~15:15と、16:10~1:00の2交代制で1週間毎に換わる。)そして改善活動の時間等を削り、両者で了解した残業時間は114時間2分になった。
・厚生労働省の過労死認定の基準は、「死亡直前の1か月間の残業時間が100時間以上、または死亡直前半年間の残業時間が平均で80時間以上」。よってこの基準を満たしていた。
・当時の上司は、博子さんに「・・上は過労死にしようという風にまとまっているので、労災がとれるようにしてくれると思う・・」と認めていた。しかし労基署からの通知は労災の不支給決定。その決定の根拠は、会社が提出した勤務表。それには残業時間はわずか45時間35分。6ヶ月の平均は30時間58分だった。これは残業時間が、上司の裁量で決められていたのが原因。
・倒れた当日は、4:20に意識不明になったのに、労基の決定は3:00。この1時間20分は、上司や同僚の証言で「世間話をしていたり、お茶を飲んでいた」ことになっていた。しかし当時の同僚は「そんなことは会社の方が許さないと思う。仕事が終わったらすみやかに帰れ、っていうことは、会社が常に口をすっぱくして言っていた」と言う。
・2005年7月、労基署を管轄する国を相手に提訴。争点は、会社にいた時間を労働時間として認めていない、ということ。
・提訴後、トヨタから博子さんに(ウワサの通り)“正社員として働かないか”と誘いがあった。しかしこれに応じれば、裁判を取りさげないといけないと考え、博子さんは断った。
・博子さんは労働保険審査会に再審査を申請した。労災認定の再審査は、地裁にあたる労働基準監督署に不服なら、労働局に申し立て、それも不服なら最高裁にあたる労働保険審査会申し立てる。これは裁判より迅速に判断するために作られた。しかし現実は1000件以上が積み残されていて、博子さんも1年半待たされた。それに開かれるのは一度だけ。時間も30分だけ。そして訴えた。「夫が亡くなって4年以上が経ちます。なぜこんなに時間が掛かるのか?残された遺族になぜ更なる負担が掛かるのか?・・・・」。この仕組みは役に立っていないのが実情。
・労基署は言う。強制調査の権限も無いため、出てきた資料で判断するしかない。人も不足しているため単なる数字で機械的に判断しているのが実態。「また(仕事が増える)労災の請求が上がってきちゃった」というのが本音。
・2007年4月27日付け新聞に「豊田労基所長ら処分」という記事が載る。2003年に自動車部品メーカから接待を受け、情報を漏らしていたとして処分されたという。不支給決定は、ちょうどその頃に該当する。そして博子さんは厚生労働省に出向いて抗議、労災認定のやり直しを求めた。
・2007年11月30日、名古屋地裁で勝利の判決。判決では、死亡1ヶ月前の残業時間を博子さんの主張をほぼ認め、死亡の原因が過労であると認定。そして会社がこれまで仕事とは認めなかった職場改善活動も、業務であると明確に判断。
・過労死問題を放置し続ける国と企業の責任は非常に重い・・。

NHKの取材に、毎日放送の奥田雅冶ディレクターは言う。
「内野さんが裁判で一番訴えていたのが、社員の自主活動と言われていた改善活動が、実際は会社の強制なんだということ。それが裁判で認められ、判決の半年後にトヨタが残業代を払うことになった。日本の長い慣習が女性一人の戦いで大きく変わることが起こり得ることを実感した。・・・」

この番組をみて、“一人の女性の戦いが日本企業の大きな流れを変えた”、という事実に感銘を受けた。そうなのだ。いわゆる「改善活動=QCサークル活動」は“仕事”なのだ。それは誰も分かっていた。しかし、自分が昔いた会社も含めて、誰も自主活動としてタダ働きをして、文句を言わない風土があった・・・。

そして“博子さんが、会社のウソに一人立ち向かったエネルギーの源泉は何か?・・”と、考えてしまった。それは自分の夫に対する“誇り”なのだろう。その誇りが、信じる自分の夫の行動を、真っ向から否定されること(残業として認めないこと)を許さなかったのかも・・・。
しかし、これだけ信頼の厚い夫婦、そして家庭を崩壊させた企業の責任は重い。
しかしその死は、妻の活動によって幾万人への計り知れない「効果(=改善活動は仕事である)」として蘇った・・・。
残された遺族が、その誇りを胸に、今後も力強く生きて行くことを祈ろう。そしてこのような番組で、この実態を世に問うた毎日放送にも敬意を表そう。
(なに?自分が過労死したらどうなるかって?? ←150%それは無いが、まあ“長いものには巻かれろ・・”かもね?)


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コメント

 「人が人として生きる」ことを平気で踏みにじる大企業の醜悪な実相を改めて知らされました。とてつもない、厚い壁に挑んだ博子さんの勇気に感動を覚える。
 それにしても、誰もが「人の道に外れるようなことはするな」とわが子に諭していながら、非道な選択を事実上、強要される同僚や上司。わたしたちは、随分とひどい日本を作ってしまった。
 名古屋といえば、テレビの準キー局があるところ。なのに、何ゆえ大阪の毎日放送が取材・制作したのか、あれこれと考えさせられるすばらしいドキュメンタリーでした。ろくでもない連中を知事ポストにと宣伝するようなわいわい、がやがやばかりの番組が多い中で、見ごたえのある番組も「探せばある」のですね。

投稿: メイさん | 2009年7月 5日 (日) 16:02

この記事のお陰でyou-tubeで番組を見る機会を持ちました。
こども二人を保育所に預け働きながら、しかも狡猾な企業の誘惑をはねつけて闘った博子さんの強さは、夫への愛であったと思いました。
戦時中の軍部にせよ今の企業にしろ、わが国は人間を大事にしない国だと思いました。

投稿: 周坊 | 2009年7月 5日 (日) 21:37

メイさん、周坊さん

実は「民放連賞テレビ報道番組最優秀賞」を取った「光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~」も地元のテレビ局ではなく、東海テレビの制作でした。
民放は、地元の問題は取り上げにくいのでしょう・・。スポンサーの関係??
しかし、このような地方民放の優秀な番組をNHKが全国放送するという企画は素晴らしいと思います。

投稿: エムズの片割れ | 2009年7月 6日 (月) 22:44

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